申し込み不要。無料でご参加いただけます。学会員以外の一般参加も歓迎です。

日本鳥学会2021年度大会 公開シンポジウム

フィールドに行くことばかりが研究ではない!外出自粛の中の鳥類学

日時:2021年9月20日(月・祝) 9:30~
場所:YouTubeライブ配信
(10月4日17時まで見逃し配信を視聴可能です)
※発表の撮影・ダウンロードはご遠慮ください。発表における著作権への配慮のため、発表内容の撮影・録画・ダウンロード等は禁止します。
コーディネーター:長谷川雅美(東邦大学)

 新型コロナウイルスの蔓延により私たちの生活は大きく変わりました。移動の制限や人との接触機会の削減といったさまざまな制約のもとで、思うように研究活動に取り組めなくなった方も多いと思います。特に野外調査を基本とする鳥類研究者は、外出自粛を余儀なくされて自身の研究が大きく停滞したのではないでしょうか。一刻も早く感染が終息し、野外で心置きなく双眼鏡をのぞける日が来ることを願うばかりです。
 一方で、そうした制約は新たな試みや予期せぬ可能性も生み出しています。つい2年前までは学会をオンラインで開催するなんて思いもよらなかったし、公開シンポジウムをウェブで配信するという発想もありませんでした。もしかしたら、この制約は鳥類の研究においても新たな地平を生みだすかもしれません。
 そこで今回の公開シンポジウムでは、フィールドで調査することを基本としつつも、データの取得は室内で行うという研究スタイルを持つ5名の研究者にご登壇願い、自身の研究内容について発表していただくことにしました。フィールドに足しげく通わなくてもできる研究、あるいは足しげく通わないからこそできる研究というものが、きっとあるに違いありません。今回のシンポジウムを通して、来たるべきポストコロナの時代の新たな鳥類研究について考えてみたいと思います。

プログラム:
09:30 開場

09:50-10:00 趣旨説明(長谷川雅美・東邦大学)

10:00-10:20 巨人の肩から挑む外出自粛中の鳥類学(北沢宗大・北海道大学)

 コロナ禍により野外調査を最小限に抑えなければならない状況となった。発表者は、「文献レビュー」と「データベースの活用」という手法を用いて、過去の野外調査データを、まるで自身が調査したかのように扱い、研究を進めることができた。例えば、86件の既往研究と4件のデータベース(全国鳥類繁殖分布調査、山階鳥類研究所標本データベースほか)を調べ、絶滅危惧鳥類アカモズの繁殖分布域が過去100年間で90.9%減少したことを明らかにした。本講演では、「文献レビュー」と「データベースの活用」を行った複数の研究例を、具体的な方法やデータベースの概要とともに紹介する。

10:20-10:40 標本資料を活用した研究のすすめ―ウミネコにおける頭骨成長の研究を例に(花井智也・日本科学未来館)

 自然史系の博物館や研究所が保存する鳥類の標本資料は、形態学など様々な研究分野で重要な役割を担ってきた。今回、既存の標本資料を活用した事例として、演者らによるウミネコ(Larus crassirostris)の頭骨成長の研究を紹介する。山階鳥類研究所に保存されている本種の雛や成鳥の冷凍標本をX線CT装置で撮影し、得られたCTデータの定量的解析によって、成長にともなう頭骨形態の変化過程を明らかにした。本講演では、本種における頭骨の成長と育雛様式との関連性を考察するとともに、外出が難しい状況下でのオンラインデータベース等による標本資料の活用を提案する。

10:40-10:45 休憩

10:45-11:05 ケージの中のフィールドワーク:飼育下の観察からわかること(白井正樹・電力中央研究所)

 近年、バイオロギング手法などの野外観測技術の発達により、野生鳥類に関してこれまで得られなかった情報が大量に得られるようになってきた。しかし、形態や行動、生理の詳細な分析、あるいは精密な種間比較や実験的操作など、飼育個体でなければできない研究はまだまだ多い。当所では鳥類の飼育環境を整備し、これまで野生のハシブトガラス、ハシボソガラスを捕獲して飼育実験を行ってきた。本講演では、外出できない今だからこそ時間をかけて取り組むことができた飼育実験について、特に外部刺激に対する行動的・生理的応答を中心に紹介する。また、飼育下における観察の限界や野生個体で検証したいと考える仮説についても議論したい。

11:05-11:25 遠くから見守る市民参加型シマフクロウの保護活動(早矢仕有子・北海学園大学)

 樹洞営巣性鳥類において、巣内へのカメラ設置は見えない生態を可視化する有効な手段である。さらにネットワークカメラの普及で、画像配信による市民参加型プロジェクトへの発展可能性も拡大した。そこで、生息地情報を公表しておらず市民が野生個体を観察する機会が乏しい絶滅危惧種シマフクロウにおいて、普及啓発と営巣地への侵入を防ぐための監視を目的とした巣内画像配信を実施した。配信終了後に視聴者に実施したアンケート結果から、育雛期間の巣を見守り続けることは知識・愛着・保護への共感の増進に貢献すること、および、近年とくに問題となっている営巣地への侵入行為に対する監視効果もある程度期待できることが明らかになった。

11:25-11:45 サイバーフォレスト(1997)ライブ音聞き取り調査(2011)は電話機(1876)と蓄音機(1877)の合体かもしれない(斎藤馨・6. 東京農業大学)

 遠隔の人の声を生で伝える電話機、音楽を生ではなく録音再生する蓄音機、共に19世紀の発明だ。遠隔の森をマイクとカメラで記録するサイバーフォレストは、2010年衛星ネットワークを導入し、現地情報を大学のサーバにリアルタイム伝送し記録するが、音は同時にそのままオンライン配信している。翌年4月バードリサーチはライブ音を聞きながらオンラインでの記録を開始した。誰でもどこからでも聞けるライブ音についての公開チャットは、鳴いている鳥の種がリストされる。記録結果も録音も公開されるが、それは電話機と蓄音機とが合体したようだ。11年目となるライブ音聞き取り調査と、思いもしなかった楽しみ方を紹介する。

11:45-11:55 休憩

11:55-12:30 総合討論(コメンテーター:植田睦之・バードリサーチ)